夢の中で

私の夢は、いつも小学生の時住んでいたところが舞台になることが多い。


本当に、なんにもなくてなんでもある場所だった。温かい場所だった。

登下校の道には大きなゴールデンレトリバーいたから頭を撫でながらお話して、道行く地域の人に「おかえり」と言って貰えて、誰もいないし待ち合わせなんてしてないけれど公園へお散歩にいく。

学校にも秘密の場所がたくさんあった。校庭の裏側にある子供しか入れないサイズの秘密基地、体育館の放送室、大好きな事務員の山ちゃんがいる事務室、心霊スポットと呼ばれてた図工室横の開かずのトイレ。

学校の周りにも家の周りにも道が沢山あって、どこに行ってもどこへでも行けた。


そんなだいすきで幸福の象徴だった私の場所は、今はもう夢の中でしか見ることが出来ない。けれどその夢も色んな歪みが入っていて、もうどの姿が本物だったのか私には分からなくなっている。それが、どうしようもなく怖い。夢を見る度に真実がひとつずつ泡のように消えてしまうのではないかと思う。


そこは別に、遠くはない。電車とバスを乗り継いで2時間もしないでつく。だから、行けばいい。行って夢が正しいかどうか確かめてしまえばいい。


それなのに私はどうしても行く事が出来ない。だって、成長と変化を受け入れる事が出来ないと思うから。


お釣りをよく間違えて渡してくる駄菓子屋はもう無い。嫌なことがあった時に逃げてきて、寝転がって空を見上げた草原には家が立っていた。もう誰も私の事なんて覚えていないし、住んでた家は雨漏りするからと父親ですら帰っていないらしい。


そんな場所に帰っても、私の好きだった姿なんかじゃない。ただ大きくなった私の体と比例するように狭くなった道、廃れて塗り替えられた全てが事実として刷り込まれるだけ。

ビー玉みたいに中に光を閉じ込めていた私の小学生時代は、もう二度と、見ることが出来ない。

悲しいことばかりを直視するのなら、もういっそ夢を現実と思い込むしかない。


今日もたくさん夢を見た。そのどれもが、登下校の道路と小学校の校舎が舞台だった。

私は一体いつまで、過去の幻想に囚われたまま生きていくのだろう。夢の中で、私はあんなにも自由なのに。

もういっそ目覚めなければいい。そうすれば、それが夢の中の虚像だと気付くことは無いのだから。