11月11日

とにかく寒い。あまりに急に寒くなるものだから、余計に外に触れるのが怖くなった。もう海は行けないだろうか。夏は暑くて息苦しくて気が狂ってしまうけれど、海に気持ちよく入れると思うと我慢出来る。冬はいいことが何も無い。

 

この季節になると、時折、好きだった女の子のことを思い出す。私にすら優しくて、ただあまりにも優しすぎるが故に壊れてしまわないか不安になるような人だった。冬になるとどうも調子が悪そうで、私は彼女のために早く春になればいいのにと祈った。それは、私が彼女と春もずっと一緒に居られると信じて疑わなかったからだ。

実際は、桜が咲き始めてから散ったあとでさえも、彼女が私の前に姿を表すことはなかった。私はまだここにいるのに彼女だけ何処かに行ってしまって、まるで捨てられたようだった。寂しくて寂しくて気が狂いそうな日々だったけれど、あんなに好きだと思っていたのに終わってみたら案外呆気なくて、本当に好きだったのかすら疑った。私が軽薄なのか、とも。本当はもっと違う理由だったのかもしれないけれど、目を逸らしていたいので真相は分かりはしない。

そうして彼女を度々夢に見ながら日々を過ごしていたが、彼女はまた夏頃に私の前に姿を現した。安堵と喜びで、その日は中々眠りに付けなかった。送ってくれたメッセージを、指で飲み込むようになぞった。

彼女は昨年から何も変わらない。すらりと伸びる白い肌の手足。髪は少しだけ切ったのか短くなったように見える。笑うとあどけなくて、焼きたてのパンみたいに柔らかい顔。

やっぱり、好きだったと思った。

でも、好意は伝えない。だって私は彼女に好意を伝えていい人間じゃない。そもそも私は愛が嫌いだ。

だけど、また冬になって調子を崩す彼女を見ていると、会えなくなるかもしれないと思いながら過ごす日々に戻ることが不安で仕方ない。いっそ、好意を伝えて言葉で縛ってしまいたい。でも、出来ない。出来ない。出来ない。私には何も出来ない。無力感が昨年よりも濁流となって押し寄せてきて、冬の風と共に私を嬲る。

 

行かないで。

私はまた、泣きながら一人で冬の夜を過ごす。