子供の為のツツジ

最近、日記って素敵だなと思うようになった。

私はただでさえ記憶能力に乏しいから、1週間後には今日あったことも、嫌だった!とか良かった!みたいな軽薄な内容に区分けすることでしか覚えていられない。

でも、日記をその日に書けばその時の情景も、気持ちも、全部永久に取っておける。その日の私がずっと日記の中で生きている。殺さなくていいんだ。こんなに嬉しいことは無い、と日記を書き始めて気づいた。


今日じゃないけど友達とご飯を食べに行った。2ヶ月くらいずっと食べたがってた、しゃぶしゃぶ。

駅で待ち合わせしてお店まで歩く時に、道にツツジが咲いていた。

ピンクと赤と白と、3色がそれぞれ咲き散らばっている道だった。

すごく綺麗だったけど、汚いかもしれないし虫がいるかもしれないと思うと、もう私には蜜を吸う勇気が無かった。

大人になってしまったなあと少し悲しくて、ツツジから目を背けるように歩いていたら、ふと友達が横に居ないことに気づいた。

後ろを振り返ると、友達がツツジの選定をしている。

「どれが甘いかな?」

「吸うの?」

「うん、もちろん。綺麗だし」

私に不思議な顔を向けるとようやく選び出したひとつのツツジの後ろを丁寧に取って、友達はツツジに口付けた。

「甘い!当たりだ!」

そう言って喜ぶ友達の顔には、大人なのに子供みたいな純粋さと純白さがあった。私は自分が酷く惨めで恥ずかしいように感じて、思わずピンクのツツジに手を伸ばす。

昔は甘いツツジを探し出すのが得意だった。当たりだったことしかない、大丈夫。私だってまだ子供の影があるはずだ。

逸った気持ちを抑えながら大きめのツツジを手に取って、口をつける。瞬間、口に広がる仄かな甘み。小学校の頃と、何も変わっていない。

「あたりだ!!!」

私から柄にもなく大声が出た。きっと今の姿を大学の同級生が見たら、ドン引きされること間違い無しだ。

でも、友達は笑って「おめでとう」と祝福してくれた。


まだ子供の心が捨てられていないことに嬉しくなって、私はしゃぶしゃぶ屋さんで肉を食べる前にアイスを2杯食べた。

それを尻目に見て笑う友人は、下手くそなわたあめを作って食べていた。